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Toggle全塗装でクレームが発生する理由(鈑金塗装工場視点)
弊社のブログの人気記事は、雹害による保険金請求といったものの以外ですと、クレーム関連となっております。
恐らく「クレームを言う」お客様側の視点の記事や投稿、意見は多く出てくるものの、鈑金工場の目線でクレームについて記載している記事が少ないからだと考えています。
弊社で発生したクレーム事例ではなく、「なぜ鈑金塗装でクレームが発生するのか」という事を鈑金塗装工場目線で記載していきたいと思います。
*なお、2025年現在、ボデーショップ佐野では事故修理の需要増から全塗装を受け付けておりません。
最終更新日:2025年11月15日
考えられるクレーム発生の原因その1 そもそも打ち合わせができていない(足りない)
修理方法の打ち合わせを行わないと、クレームが発生する可能性が高くなります。
高額となる全塗装であっても、鈑金塗装工場にお任せするというタイプのお客様はもちろん、
工場側から予算を抑える提案や、又は予算をかける提案が無い場合は、打合せが足りないものだと思います。
打ち合わせが不十分だと、仕上がりのイメージが合致しません。
一般的な事故修理は、損害部分がきれいになればそれで充分という方もいらっしゃいます。
車両保険や被害事故で対物保険を使うのに、「更にお金を払う作業」のご提案をするのは、
鈑金塗装工場側もクレームとなる可能性があるため、事故修理時の細かい打ち合わせを困難にさせている要因かもしれません。
全塗装は損害が無い箇所も塗装する場合が多く、色を変える場合はどこまで塗装するか、どこまで塗装しないかによって金額が大きく変わります。
全塗装の場合でも、弊社で以前記事にしている、「実費修理の提案方法」が参考となります。
全塗装ではない部分的な修理でも同様ですが、
板金塗装工場側としての工賃が変わる作業方法は何パターンもあるのに、
見積もりは1つだけの工場が多いです。(内容にもよるため、それが悪いわけではありません。見積もりが1パターンしか出なかった!星1です!というようなレビューは参考にならないと思います)
「もっと予算がかけられるのですが、この見積もりが一番キレイに仕上がる作業方法ですか?」や、
「もっと予算を抑えたいのですが、これぐらい予算を抑えるとこういったトラブルが発生する可能性がある、というものを教えてもらえますか?」
といった質問を工場側に行うことで、仕上がりイメージが合致しやすいと思います。
こういった質問をすると、「素人なんだから面倒臭い事言うなよ」と考える工場も多いかもしれません。
しかし、知らないのだから質問する、知っている人が教えるのは当たり前だと思います。
こういった説明には非常に時間がかかるため、周辺の修理工場より安価な工場では、細かい説明が出来ないというのは手間を省く以上仕方がないかもしれません。
特に保険修理の場合、「キレイに直してください」という最も早く終わる打ち合わせで終わってしまうケースは多いと思います。
この、「キレイ」の基準は人によってそれぞれで説明が難しく、お客様の中で考えられる最上の修理方法が、車両保険で通らないケースが多いです。
この場合、事前の説明が出来るかどうかは、お客様からご質問や作業内容への詳細な希望をお伝えいただけるかにもよりますが、キレイの基準の差でクレームが発生する場合があります。
全塗装で特にクレームが発生する可能性が高いのは、旧塗膜(旧塗装)の除去になります。
新品部品に交換するのであれば通常塗装がされていないので、旧塗膜が無い状態となりますが、
以前にどこかで修理されていたり、経年劣化で新車の塗装がダメージを受けていたりすると、
基本的にはその塗装を除去する金額は車両保険や対物保険で支払われないケースがほとんどです。
そして、塗装トラブルが既に発生している上に塗装をする場合や、経年劣化の上に塗装をする場合、
「修理工場に対する作業のクレームなのか、旧塗膜(以前の修理)で発生しているクレームか分からない」というトラブルが起こり得ます。
これが、クレームに対処してくれない工場の正体であった場合、工場の作業品質の問題というよりも、
事前の打ち合わせをする(顧客の本当のニーズを引き出す)能力、簡単に言えば打ち合わせに問題がある、という事になります。
また、全塗装の場合は弊社で以前記事にしている、「ボデーショップ佐野の全塗装について」が参考となりますが、
弊社では念入りに打ち合わせを行ってから全塗装をしております。
そのため、全塗装の見積もり(打合せ)には費用をいただいております。
これは、全塗装のクレームを防ぐためでもあります。
全塗装をしたいという事は、全塗装前の塗装が経年劣化や以前の修理により、新車の状態に近いとは言えない事がほとんどです。
前述の通り、全塗装前に「既に塗装トラブルが発生していないか、劣化具合はどうか、トラブルや劣化が発生している場合、それをどうするのか(どこまでお金をかけて作業するのか)」を打ち合わせする必要がありますが、
手間を省くためほとんどの鈑金工場ではこれを行いません。
打ち合わせが無いまま一律料金で進めた結果、
顧客「**万円払うからこれぐらいキレイになるだろう」
(今あるトラブルは全て解決するし、もう全部問題なくキレイに塗装してくれるだろう、など)
鈑金工場側「**万円だからここまでしか出来ない」
(今あるトラブルを直す費用は含まれていない、下処理は塗装が乗る最低限、凹みはそのまま、など)
ブログ記事を書いている佐野は一律料金で全塗装を行う工場の実情を知りませんので、細かいお打ち合わせがある可能性もございますが、
こういったすれ違いが起こり得るのではないでしょうか。
ボデーショップ佐野としては、「全塗装が一律料金で出来るはずがない」と考えております。
同一作業同一料金だと仮定すると、車種や年式、色が同じでも、新車でない限り同一作業になる事がまず無いためです。
(極論を言えば、一律料金では実は割高、という事もあるのではないでしょうか)
一律料金で全塗装を行うお店に依頼をする場合に気を付けるとしたら、
どういったトラブルには対処してもらえるのか、作業後に考えられるトラブルは無いか、
「もっと予算をかけられる」という事を伝えた場合、どういった提案が出るのか
(逆に言えば、この質問によりその予算をかけなければどういったトラブルが発生する可能性があるかが分かると思います)
といったところで、クレームが発生する可能性を少なくすることができると思います。
考えられるクレーム発生の原因その2 全塗装なのに色が違う場合もある
全塗装で色が違う事なんてあるの?と思う方が多いと思いますし、鈑金工場の目線から考えても、
色が違うというクレームが発生しづらい作業のように思えます。
しかし、全塗装時に事故修理も同時に行うなどで、色が違う!と言われてしまう事があります。
例えば塗装済みバンパーで交換をしながら、他の部分を全塗装する場合などで発生する可能性が高くなります。
塗装済みバンパーはなぜ色が違って見えるのかについての詳細な説明は割愛しますが、
簡単に言えば「素材が違うと色の出方が違う場合がある」という言い方になるでしょうか。
最近では、バンパー以外にも樹脂部品が多くなっております。
そのため、調色した色(使用している塗料)は同じでも、素材の違いによる作業工程(材料)の差から、
色が違って見える事になってしまう場合があります。
これについては、色が合うまでやり直させるという方法でクレームを解決する方法はあるものの、
ある程度限界がある可能性がありますので、特に純正塗装済みバンパーで交換をする場合などは、
事前に打ち合わせをした方が良いケースがあります。
メーカーによっては、純正塗装無しバンパー(要塗装品)を供給している場合もありますので、
そういった部品を使ってもらうという手もあります。(多くの場合、塗装済みバンパーより高くなります)
考えられるクレーム発生の原因その3 鈑金塗装は魔法ではない(修理には限界がある)
新車の製造工程と比べれば、鈑金塗装工場は「工場」というよりも「家内制手工業」に近いものがあります。
例えば、1人で鈑金塗装を行っている工場さんは、部品屋さんや馴染みの営業マンがくると、
「ちょうどいいところにきた!ちょっとスライドドア持ってて、ボルト留めるから!」
という事が発生します。(弊社ではありませんが、実話です)
新車製造ラインが再現できない以上、鈑金塗装、特に塗装には限界があると言わざるを得ません。
新車製造ラインで行われている作業工程と、修理工場の環境は異なりますし、使われている材料も異なれば、環境も異なります。
同じ車種の新車でも製造ラインや時期による環境の差によって若干異なる場合があるのをご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、
そもそも新車でも全てが同じ色とは言えないのであれば、魔法でも使わない限り新車と同じには戻りません。
その中で、限りなく事故前の状態や新車に近づけるのが職人の腕の見せ所となります。
しかし、お客様が鈑金塗装に対して要求するレベルが高すぎる場合、現実的に不可能な作業を依頼している事もございます。
それを、工場側がきちんと説明しない(できない)場合、クレームが発生する場合があります。
例えば弊社では、”バックドアを修理してもらったはずが、綺麗すぎるので新品に交換したのではないかというクレーム(作業内容の説明をしてほしいという請求)”が入った事があります。
鈑金塗装工場側からするとクレームとは言えない、むしろ大変ありがたい評価という事になりますが、お客様からすれば不信感があるという事でしょう。
作業中のお写真を提示し、元々のバックドアを修理している事、保険会社と打ち合わせし、適切な作業方法を取っている事をご説明させていただく事で解決しましたが、鈑金塗装が魔法のように感じてしまう方もいらっしゃる例だと思います。
しかし、一見簡単に思える”外して付けるという”という作業一つをとっても、
状態によっては塗装の割れが発生したり、重さや留め付け部品の劣化、新品の製造環境が新車時と異なるなどの理由により隙間が広くなったり狭くなったりすることも考えられます。
許容できない”こだわり”は何であるのか、こだわりのある部分について許容できる範囲がどこまでなのか、
工場側に伝える事で防げるクレームがあるかもしれませんね。
まとめ
鈑金塗装は、決して安くありません。
鈑金塗装工場に求められる法律や環境の変化、仕入れ原価や維持費の高騰(産廃処理費用の上昇、塗装材料費の上昇)など、工賃が高くなる要因は増え続けています。
そして、事故修理と比べれば全塗装のご依頼の多くは「全塗装に費やした金額分、価値が上昇(復元)するわけではない」という趣味の世界に近くなります。
(事故修理は、事故前の状態に戻すという価値の復元の割合が多くなる事がありますが、全塗装の場合は全塗装に費やした金額のほとんどが価値に直結しない、という場合があります。市場価値が関わるため、価値の上昇を目的として修理するのであれば、事故現状のまま修理をしない方が良い場合もあります)
趣味であれば可能な限り安く抑えたいものですが、趣味だからこそ満足がいく、納得がいく仕上がりを求めたいものです。
クレームの発生は誰にとっても良い事ではありませんが、打合せだけで事前に防げたクレームもあると思います。
「クレームゼロです!」という工場があるとすれば、「これは苦情としての対応じゃないからノーカウント!」という意味かもしれません。
これはもしかすると、「(苦情は受け付けていないので)クレーム(として無償での再修理の経験は)ゼロです!」という意味でもあるかもしれません。
(英語のClaimの意味は請求・主張であり、苦情という意味では無いのですが、カタカナ語のクレームは苦情と捉えられがちです。弊社では、カタカナでのクレームも請求・主張という意味で捉えております)
鈑金塗装工場には、時間や作業の流れといった都合や、お客様と連絡が取れないが進めないと納期に間に合わない場合も含め、
自社での努力だけでは事前に苦情を防ぐ手段を取るのが困難なトラブルもあります。
できるだけ修理後のクレームを減らしたい場合、修理工場と綿密な打ち合わせを行い、
作業内容から発生しうる苦情を想像し、それを対処するのにかかる費用を確認する事が(時間や手間はかかりますが)大事かもしれません。
また、鈑金塗装には限界があり、その限界の中で妥協できない部分(仕上がりだけでなく、限界の予算)があれば
事前に伝えておくことで防げるクレームもあります。
ニーズに近い作業方法を依頼する方法についても、今後記事にしていきたいと思います。
投稿者プロフィール
- shusukesano
- 2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。
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