昨年2024年はガイドラインが出ましたが、今年2025年は車体整備事業者による事故車修理の適切な価格交渉の促進のための施策が出ました。

なぜ国交省が価格転嫁の指針を出すのか

車体協と呼ばれる、板金塗装工場の団体で最も加盟数の多い団体が東京海上と工賃アップで合意しましたが、なぜ国交省が価格交渉の指針を出したかといえば、

今後も優秀な整備士を確保・育成していく必要がありますが、令和5年、公正取引委員会が実施した特別調査において労務費の転嫁率が低い受注者の割合が最も高い業種であったように、人材確保・育成の原資を確保していくことが求められています。

と報道発表資料に書かれている通りでございまして、
つまり「給料上げない理由を保険会社のせいにするな!きちんと交渉しろ!」(佐野意訳)という事でございます。

この施策に隠された未来は「価格交渉=値上げ」だけじゃない

実はこの国土交通省の施策について、
多くの工場では「ようやく値上げが出来る」「交渉ができる」という考え方にたどり着いていますが、
ボデーショップ佐野は「値上げ」が本体ではないと考えています。

一部の工場は値上げの必要性を早い段階から感じ取っていて、私も同業他社が出席する会議の場では値上げを推奨してきました。
弊社では2019年ごろから少しずつ値上げをしており、その金額を全てではないものの、保険会社に対しても説明しまたある程度は認められてきました。

国土交通省に言われなければ、値上げが出来ないほど保険に縛られた業界ではありません。
医療保険のように、点数で金額が決まっているわけではありません。
「周りの工場と比べて工賃が高い理由が説明できない」のが原因だったと考えています。

しかし、時すでに遅し。
日本人の若手現場作業員は減少し、整備士や板金工・塗装工のなりてはいません。

今から年間休日を120日以上にして、リモート勤務不可かつほとんどの工場では夏は暑く冬は寒いことから、それなりに高い給与を提示したところで、整備業界に長く働ける若手はなかなか来ないでしょう。
すると、今いる人材が流出しない事に使われるべきですが、大きな会社ほどすぐに昇給できるシステムではないため、働き方改革による残業の減少による残業代の減少=手取り額の減少が大きく、昇給が追い付くまで時間がかかります。

今後は人材の奪い合いが始まるため、年間休日や給与だけではなく、福利厚生の充実や工場環境の充実、企業理念や社会貢献活動なども見られるようになります。

しかし、今回の国土交通省の施策はそれだけではありません!
労務費の上昇、人手の確保には値上げをするだけでは無いのです。

「標準作業時間の調査」が本体

これまで、日本では「指数」と呼ばれる、保険会社が主導して作成したといっても過言ではない工数が使われ、また保険会社も推奨してきました。

この記事では「指数が標準(作業)時間か」という点については長くなるので触れませんが、
国土交通省が作業時間の体系についてメスを入れると書いてあるのです。

これにより、これまで「本当にこの前提条件で、この作業がこの時間で出来るのか」と言われてきた指数や基表方式以外の交渉が行いやすくなると思われます。
様々な業界団体により、指数以外の選択肢が模索されている昨今ですが、世間を揺るがした保険金不正請求問題の根幹には指数と対応単価の問題があったと考えている佐野としては、(保険会社以外の)誰にとっても良い流れであることは確かです。

まとめ:国土交通省としても、指数を問題視している(かも)

指数の問題は根が深く、またそれ以外の選択肢についてもその入手方法や使用の問題、保険会社との協定(交渉)の手間などを考慮すると、弊社のように疑問を持ちながらも指数の使用に落ち着くケースも多いと思います。

今後、国土交通省が予算を取って標準作業時間の在り方について見解を示していくと、保険会社主導といっても過言ではない会社の作成する指数に縛られない、より公正・公平な金額提示が出来るでしょう。
特に、塗装材料費などは安価すぎる・高価すぎるカラーでも指数では金額がある程度平滑化されるため、もっと安くできる・高くならざるを得ない色があるものの、計算方法の複雑さや協定時の手間などを考慮し個別の対応が難しい状況にあります。

「修理時に安価に直せる色」と自動車メーカーが売り文句にできるような時代が来るかもしれませんね。

投稿者プロフィール

shusukesano
shusukesano
2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。

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