完全に板金塗装業界の方に向けた、自研センター指数(以下、指数)に関する記事になっています。
しかも読み終えるまで15分~20分ほどかかります。

板金塗装工場の皆様。
2026年1月号のBSR、合理的な見積もり実践を読みましたでしょうか。

私、佐野はBSRのこの部分は見積もり内容よりも見積書講評を読むのが好きなのですが、
今回、右側の「元アジャスターA氏」に記載の指数に関する内容について思うところがあり、記事にしたいと思います。

記載の原文(BSR 2026年1月号 P.61 右側下部)

業界を挙げて健全化に向けた改革を進めなくてはならない中、ものさしであるはずの指数を無視し、各社が勝手な我流の作業項目、根拠のない請求が散見されている。そのような中で、本事案はガイドラインに対する前向きな取り組み姿勢を感じ、このような車体整備事業者は顧客から信頼され、完成した車を見た依頼主の笑顔が思い浮かぶような見積書だった。

歪んだものさし

もし指数が健全で、透明性が高い”標準工数”なのであれば、こんな記事は書いていません。
あまりにも多くの工場から「この時間では作業が出来ない」と言われて国が予算を取って調査をすることもありません。
実作業に沿っている可能性のある”我流の作業項目”よりも根拠がある、とする根拠を知りたいものです。

私が指数をものさしに例えるなら「まっすぐではない」し、「1mm幅が均一ではない」もので、「日本では他に幅広い車種に適用できる工数表を得る手段に乏しいため、多くの工場が仕方なく使用している」という状況です。
他に何に例えたら良いでしょうか。

このものさしが歪んでいると考えていない人もいますし、どれぐらい歪んで見えるかどうかは人それぞれですが、ひとまず歪んでいる理由を記載していきます。

指数とは

指数とは | 自研センターをご確認ください。
板金塗装業界の人なら、説明不要ですね。

指数の問題点

事故修理協定「指針」に 自研センターはなんと答えたか!? | マガジンXニュース

この記事にもある通り、これも業界人には説明不要ですが、端的に言えば指数を作っているのは保険会社で、アジャスターは保険会社の従業員、又は下請けです。
私が協定の時にアジャスターから「指数は透明性が高い、指数を無視していると根拠のない請求、指数を使っているからガイドラインに対する前向きな取り組みであり、信頼される見積書を作るために指数を使ってください」ともし言われたら・・・話にならないから上司を出せ、と言います。
(弊社ブログはアジャスターさんも見ている場合がありますが、佐野は本当に言いますね)

指数がいかに透明性が低く、不要な請求まで含まれており、それを無視して顧客の信頼を勝ち取れると考えているのなら不勉強と言わざるを得ないですね。

指数が不透明な理由

  • 指数算出の根拠となるであろう基表は非公開(私の知る限り)
  • 実車計測をしているらしいがデータや動画は公開しない(私の知る限り)
  • 作業の平均値らしいが、最低値最高値などのデータは公開されていない(私の知る限り)

私の知る限りと書いていますが、恐らく書いていません。
もちろん、指数は商品でもありますので、企業秘密に関わる部分は公表できないでしょう。
しかし、本当に透明性が高いというのであれば、他の工数の選択肢について言及し、
「うちの商品(指数)は、よその工数(我流)よりもこの点で透明性が高い」
といった形で透明性を主張するのが筋ですね。

指数が不要な請求をしている(場合がある)理由

  • ソリッド以外は隣接パネルのぼかし塗装を含む、つまり実作業としてフロントドア後方修理でリヤドアボカシ塗装、フロントフェンダーはボカシ塗装をしない場合、厳密には過請求となる(BSR 2026年1月号のP.61、元アジャスターA氏の左側で永縄氏が言及している通り、2パネル分がカウントされている事を佐野も自研センターに確認済み)
  • 少なくとも協定をするアジャスターは前提条件を厳密に運用しておらず、前提条件から考えると不要な請求をしている状況は存在しうる(実質的にほとんどが前提条件から外れているが、これは他の工数表であっても同様だと考えられるものの、共有資料でボルトが錆びていてもアジャスター側からこの点について加減の話が出る事は少ない)
  • 指数が無い車両については、似た他の車両の指数を無理矢理適用しようとする(サイズや車格が近いもの、例えばVWゴルフならトヨタのヤリス指数の1.2倍など)

もちろん、BSR本誌の1ページの半分にも満たないスペースで、これらについて記載する余裕はありませんし、指数の問題点についてBSR本誌が言及するのは国の調査が進んでからだと思いますが、
これでも一般消費者を笑顔にできていると言えるのでしょうか。

指数が依頼主(消費者)を笑顔にすると考えられる(つまり、本来の作業に対して早すぎる=安くなる)理由

  • 指数の作業時間内では作業が出来ない(ことが多い)
  • メーカー工数よりも圧倒的に短い作業時間が設定されている(ことが多い)
  • 指数は平均値を用いているらしいので、何の平均をとっているかによっては、サービス内容よりも安価となる(仕上がりを重視している作業内容が安くなりやすい・手を抜く方が儲かるという可能性が拭えない)
  • 前提条件に”当該作業について知識と経験があり、作業手順・作業方法を理解している者”とある事から、珍しい車や珍しい作業に関しては実作業時間よりも指数の方が短い作業で出来る事となる(と推測される)

確かに安ければ依頼主は笑顔になるかもしれませんが、透明性が高いと言われる指数を使う事で経営危機に陥るのであれば、それは長い目で見たときに依頼主を笑顔にし続けられるのでしょうか。

指数以外の選択肢としてのミッチェル工数表

日本語版は撤退してしまいましたが、私、佐野はミッチェルの方が過剰な請求が無い見積もりが書けると考えておりますし、利害関係を無視すれば、ミッチェルを使用したことがあるアジャスターは同じ事を考えるでしょう。

ミッチェル工数表には、以下のような利点があります。

  • ボカシ塗装用の数値があり、1枚単位で計上できる(指数はソリッド以外強制2パネルボカシ)
  • 外車も対応(というより、日本語版では外車工数しかない)
  • 本前半にある工数使用マニュアルが分かりやすい(指数と比較して)

しかし、以下のような欠点があります。

  • 塗装工数は記載数値=時間ではないため、計算式が必要
  • 日本語で手に入るのは外車のみ、更に2020年版を最後に翻訳ストップ
  • 日本車についてはASIAN工数表(英語)の購入が必要
  • ソフトウェア版の契約は日本では基本出来ない

日本でミッチェル工数表が搭載されているソフトウェアが基本的に手に入りませんので、ミッチェルを使うには本の入手と本の適用が必要です。
更にミッチェルの日本車工数表は英語で輸入が必要ですので、物好きしか所持しておりません。

まとめ:この問題は国が終わらせる(のか?)

板金塗装工場が我流の工数を使う際、その根拠をしっかり持ち、指数に対して我流工数を使う理由をしっかり持っていれば、アジャスターに何を言われても説明が出来るはずです。
「その方が儲かるから、我流工数を使う」
という事をしていると、躓くときがくる
のではないでしょうか。
弊社が入っている業界団体、BSサミットが掲げるように、我流の請求が指数よりも正しいと思うのであれば「王道・正道を征く」のが筋です。

さて、これだけ長い業界人向けの記事を書いたのは理由がありまして、
前述の通り、指数に対して国が予算を取って調査をする事が決まっています。
一度1994年に公正取引委員会から怒られている指数ですが、今回は指数自体の工数としての有効性についての調査になるでしょう。

私が指数に疑問を持っていたころ、様々な資料を探している時に出会ったのが静岡の板金塗装工場、ボディワークスアルファさんのブログでした。
動画も拝見させていただき、メールも送りました。指数の成り立ちもご存知ですので、一度お会いする機会があればと考えています。

国が調査をして一定の解決を見せる前に、今回のような記事を書いておきたかった。元アジャスターA氏のおかげです。
常日頃から書いていますが、王道、正道を征く板金塗装工場が生き残る世の中になっていただきたいと思います。

最後に、もし元アジャスターA氏に届くのであれば、
根拠資料を送信しても、(少なくともここ数年は)根拠資料をもとに協定を進めていただけない事をお伝えしたいです。
レートの根拠、塗装材料費の実額請求に関する根拠資料、場合によっては決算資料の一部まで開示しても、この内容を基にした話をしていただけません。送られても困るとまで言われた事があります。
根拠となる資料を開示しても見ない人たちに、根拠のない請求が散見されると言われたら、指数の根拠について資料の提出をお願いしたいですよね。
現代のアジャスターに本当に必要なのは請求根拠ではなく、心と身体が健全な状態で働ける職場環境のようですよ。

投稿者プロフィール

shusukesano
shusukesano
2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。

Comments are closed