「傷なし事故」で検索される方が多いので、傷なし事故でも保険請求できる、という記事になります。

実際に起きた傷なし事故の事例については、別の記事で書いています。

ただし、実際にはぶつかっていない場合、損害賠償としての請求は困難です。
「ぶつかったはずなんだけど、キズが分からない」
「元々の傷が多すぎてどれが今回か分からない」
という場合の記事になります。

車両保険を使って修理しないで保険金を貰う場合の記事や、被害事故で修理せずにお金だけもらいたい場合の記事も参考にしてください。
2025年11月15日更新

事故現場で傷が無いと判断しない方が良い

事故現場では気が動転している方もいます。想定外の事故に、焦っている方も多いでしょう。
気持ちを落ち着けたい一心で、「車に傷は無さそうだ」と、加害者が被害車両を見て発言すると、思わぬトラブルの元となります。

仮に傷が見当たらなかったとしても、ぶつかっていれば押された事によって機能に不具合が出る場合や、製品寿命が縮む場合、鈑金塗装工場が見ると細かい損害が発覚する場合もあります。

事故現場で傷が無いと判断する事は、お互いにとって良い事ではないかもしれません。

傷が無いと誰が決めるのか

被害事故でも加害事故でも、自損事故で相手が居なくても、
ぶつかったはずなのに傷が無い、見当たらない、どれか分からない、と
いう方がこの記事を見ているのではないでしょうか。

ケースにもよりますが、”傷が無い事を誰が決めるのか”という問題があります。

加害者がいる事故の場合

加害者と被害者が明確な事故の場合、損害賠償請求権は被害者にあり、損害を立証するのも被害者ですので、被害者が損害がある事を立証する必要があります。
つまり、加害者に対し「おまえのせいで起きた事故なんだから、お前が判断しろ」と言ってきても、加害者が応じる必要はありません。
(ここで「傷が見当たらないので、事故は無かったことに・・・」と加害者側が言うとトラブルの元なので、任意保険に加入していれば保険会社に任せるのが最もトラブルの少ない対応だと感じます)

被害者が損害を立証するため、被害者が傷が無いと言ってしまうと損害は0円となります。

加害者側の車両に傷が無い

停止中の車両にぶつけた、というような100:0の100側である加害事故の加害車両については、気になる傷がなければ修理しない、損害としないというケースが多いです。
車両保険に加入している場合でも、年度内の事故は免責が発生する事から、無理に使う必要が無い、という事もあります。このあたりは分かりづらいので、保険会社に説明を求めた方が、契約内容に基づいて説明を受けられると思います。

双方過失が同程度の場合

ドアミラー同士の接触でどちらも今回の事故の傷が良く分からず、自損自弁(お互いに相手の車の修理費は見ない、自分の車を直したければ自分で支払って直す)という事も、このケースに近いでしょう。
お互いに過失があり、同程度だという場合は、傷が無さそうで怪我をするはずのないような事故であれば警察を呼ばないというケースもあるでしょう。
しかし、特に高級車や外車、カメラ付きのドアミラー等は高額になる場合もあり、事故後数日で一部機能しない、というトラブルが発生した場合を想像すると、やはり警察を呼んでおいた方が無難です。
傷が見当たらないからといって、損害が無いとは言えません。

相手がいない単独事故の場合

可能であれば、電柱やガードレールなどの対象物の写真を、全体が映る距離とアップで撮影し、キズが無い証拠を残しておきましょう。自身の車についても同様です。

「ぶつけたけどキズは無さそうだ」と警察に連絡した後に、別の車が同じ箇所に当て逃げをしていた場合、あなたがその当て逃げ車両の作ったキズの加害者だと思われるかもしれません。
相手がいない事故では、キズが無いと判断しても、証拠を残しておいた方が良いかもしれません。

見た目に傷がなくても、接触していれば損害は0ではないかも

傷だけが損害ではありません。

例えばドアミラーがぶつかったのであれば、内部機構に負荷がかかる事で反対のミラーよりも早く壊れる可能性があります。
センサーのついている箇所(バンパー等)であれば、センサーの動作不良を起こす要因となったり、ズレによって今まで反応していないものにまで反応する場合や、反応してほしい時に動かない可能性もあります。
レーダーの動作条件を考慮すると、レーダーが動作しなくなる可能性が出る、という事も考えられます。

素人目に見て損害が無くても、プロである鈑金塗装工場の人間が見る事で損害を発見できる場合もあります。
上下左右の隙間の違いや、隣接する部品との距離の違い、僅かな歪みや新車状態との差を見つける事も仕事です。
もちろん、今回の事故かどうか鈑金塗装工場で判断するのは困難です。これは、事故現場を見ていたとしても確定的な判断は下せないかもしれません。

見た目に傷が無いから修理費は0円だ、見た目に傷が無いから安いはず、という考え方は、被害者にとって受け入れがたいものであることが分かると思います。

保険会社のアジャスターは同一事故かどうかの勉強をしている

任意保険会社が事故に関わる時は、今回の事故と同一の損害かどうかを判断するのは任意保険会社になる事が多いです。

佐野はよく「保険会社はあなた(契約者・被害者)の味方でも工場の味方でもなく、株主の味方です」という言い方をしますが、アジャスターの仕事には、同一事故かどうかの判定も含まれていますし、そのための勉強をしています。

鈑金塗装工場の仕事は損害の見積もりを出す事と、損害を直す事であり、同一事故かどうかに対しては見解を述べるに留まります。なぜなら、事故の当事者ではないからです。決定権はありません。
保険会社は、その立場(契約者に代わって損害を賠償する、または損害賠償請求権を持つこと)から事故の当事者としての立場になる事が考えられるため、その判断を下したり、契約者に説明の上納得してもらって判断を下す、といった事があります。

相手のバンパーが元から傷だらけで、今回の傷の方が小さい

このような場合でも、保険会社は極力保険金を支払いたくないので、必要な範囲の損害賠償で済ましたいという意向があります。
しかし、保険会社は早期解決の味方(早期解決により人的リソースの消費等を抑える事で、経費を抑える)でもあるので、数万円で揉めるよりも支払ってもらった方が良いと判断する事もあり得ます。

元々大きな傷があり、まったく同じ場所に新たに小さな傷がつく、という場合には難しいかもしれませんが、
右に傷があり新たに左に傷がついた、という場合には損害として認められるでしょう。

まとめ:傷がなくても損害はあるし、請求もできる

  • Q: 車に傷が見当たらない場合でも保険請求はできますか?
    A: できるケースがあります。見た目に傷がなくても内部機構や塗装や機能の寿命に影響が出る場合があり、保険請求対象となります。
  • Q: 「傷なし事故」とは具体的にどういう状況ですか?
    A: 接触はあったが外観に傷が見えないケースを指します。衝撃による内部損傷や後から不具合が出る可能性があります。
  • Q: 傷がないと判断するのは誰ですか?
    A: 相手の有無により変わります。保険会社が入る場合、保険会社のアジャスター(査定員)が判断する事があります。修理工場は損害の有無を見積もりとして提示しますが、保険会社の判断をもとに、契約者や被害者が判断するケースが一般的です。
  • Q: 修理工場は事故の有無を決定できますか?
    A: 修理工場は損害の有無を確認できますが、事故の当事者ではないため「事故があったかどうか」「事故による損害かどうか」の決定権はありません。あくまで、見解を述べるに留まります。
  • Q: 傷がないのに修理費用が高額になるのはなぜですか?
    A: 最近の車両はセンサーや安全装置が多く、外観に傷がなくても内部部品交換が必要になるためです。
  • Q: 修理費用はどのくらいかかりますか?
    A: 車種や年式、損害箇所、グレードや装備、オプション品などによっても異なりますので、埼玉県新座市近辺のお客様は、ぜひボデーショップ佐野までご来店くださいませ。
  • Q: 傷がないと相手に言われた場合、どう対応すべきですか?
    A: 写真を撮って証拠を残し、保険会社に相談することが重要です。自己判断で「損害なし」と決めるのは危険です。
  • Q: 保険会社は契約者の味方ですか?
    A: 保険会社は株主の利益を守る立場ですが、担当者によっては契約者に寄り添う対応をしてくれる場合もあります。

接触していても傷がないし、損害も全く無いというケースもあります。
しかし、最近の車両は装備の高度化が進み、傷が見当たらない部品にエラーが出る事もあり得ます。
バンパーの衝撃により自動ブレーキ用のシステムのエーミングを必要とする場合もあり得ますし、
ドアミラーの損傷で全方位カメラのエーミングが必要になるなどのケースでは、想定以上の修理代になるという高額化の問題もあります。

加害者の方がこの記事を読んでいるようでしたら、被害者の立場に立って自分の言葉がトラブルにならないか考えていただいた方が良いと思います。
「5万円くらいで直るでしょ」という言葉を言われて、20万円の見積もりが出た時に被害者がどう思うか。加害者から「なんで取替をする必要があるんだ」と言われた時にどう思うか。
修理工場から「センサーの誤作動があるかもしれないので取替します」と言われたのに加害者から「そんな大きな損害じゃないはず、取替の必要なんてない」と言われた時にどのような気持ちになるか。

円安の影響や人材不足の影響もあり、工賃も部品代も以前より高くなっている傾向にあります。
過去の知識は役に立ちません。1年前と比べて同じ修理が1.3倍する、1.5倍するという事もあり得る世の中になりました。

傷が見当たらなくても請求権がなくなる訳ではありません。
傷が無いと判断する権利が誰にあるのかを知る事で、不要なトラブルは避けられるかもしれません。

用語解説

  • 傷なし事故
    接触はあったが外観に傷が見当たらない事故のこと。ボデーショップ佐野のスタッフが確認すると、内部損傷や後から不具合が発生する可能性があります。
  • アジャスター
    保険会社が依頼する事故の査定員。事故による損害有無や修理費用の妥当性を判断する役割を担います。
  • 保険請求
    事故や損害が発生した際に、契約者が保険会社へ補償を求める手続きのこと。
  • 修理工場
    車両の損傷を確認し、修理費用の見積もりを提示する事業者。

投稿者プロフィール

shusukesano
shusukesano
2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。

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