先日、お客様より車検のご相談がありました。
一度仕事とは関係なくお会いさせていただいている事から、余談で車検についてのお話をさせていただきましたので、その内容を記事にしたいと思います。
現状の車検制度のおさらい:認証と指定という許認可
日本はありがたい事に、車検制度によって自動車がきちんと整備され、良質な中古車が多いと言われています。
乗用車であれば基本的に新車から3年目に1回目の車検、以降2年ごとに車検という現行の制度ですが、日本車では1回目の車検で悪いところが見つかるのは稀です。
こういった状況から、車検の期間を延ばすという話もあったようですが、日本人は車検以外で点検を滅多に行いませんので、様々な問題点がある事から無くなりました。
(整備工場からの強い反発があった、整備工場も票田である、といった部分には触れません)
さて、ボデーショップ佐野は認証整備工場ですが、自社で点検整備を行った後、陸運局に持ち込んで車検が完了します。
認証工場のメリットは「不正な車検が(陸運局の見落としが無い前提で)出来ない」という点です。
デメリットは「時間がかかる」「1日車検はまず無理」という事となります。
ボデーショップ佐野の車検では、無料代車をお出しする事で対応しておりますので、しっかりとした点検をご希望の方は、認証工場の方が良いと言えます。
ディーラーの多くや一日車検を行っている整備工場は、指定整備工場です。
指定整備工場のメリットは「早い」「認証工場より安い場合が多い」という部分となります。
デメリットは「不正を行う事が認証より圧倒的にしやすい」という点に尽きます。
車検のタイミングで払う税金もある事から、嫌々・義務的に車検を行う方が多く、待っている間に終わる車検が人気となっています。
指定整備工場での不正は多分なくならない
もちろん、全ての指定整備工場が不正を行っているわけではありませんが、
「指定整備工場 取り消し」で検索すると、ディーラーでも不正、大手中古車販売店でも不正。不正は一向に無くなりません。
「努力しても不正になってしまう」という環境に近い要因もありますが、「忙しすぎてこなせない」という現場の要因もあります。
人間が点検をするため、見落としやミス、勘違い等から発生した不正もあるでしょう。
例えば、1人の整備士が1台の車両を点検するのにかかる時間を考えます。
「60分車検 仕組み」で検索すると、複数名のスタッフで点検を行う事が書かれています。
つまり、1名のスタッフでは60分で車検の点検を終わらせることができません。
仮に2~3名で60分だとすれば、単純に1名で120分はかかります。
1日8時間の労働時間であれば、4台が最大です。
もちろん、1台1台状態は異なりますので、大きい車両や年数の経過している車両は時間がかかります。
転職エージェントの売り文句が変わってきている
弊社の求人に連絡してきた転職エージェントの方はこう言います。
「彼は整備士2級を学校で取って1年目ですが、1日に車検を10台行ってます!」
佐野「1人でですか?」
本人「1人で、です」
1年目で1人で10台?点検しっかり出来るのかな?寝てないのかな?という感想でした。
弊社の整備スタッフと、「多分点検できてないよね」「点検したことにして書類だけ書いてるでしょうね」という話をしていました。
彼が在籍していた会社はその後、不正車検で指定取り消しとなりました。
また、別のFAXで転職エージェントからきた資料には、
「彼は1人で1日に4台の車検を行えます!」と書いてあります。
残業はしているとしても、状態や車種によっては1名で120分では終わらない車もあります。
全て軽自動車、1回目の車検で状態も良い、というベストなパターンで4台かもしれません。
1日に10台と4台では大きな差がありますが、不正をしているか、不正をしていなくても疲労からきちんと見れていないか、やるべきことを行っていないか、といった懸念点が出ます。
若手の整備士を使い潰してきた自動車整備業界は、整備士の総数が増えないという現状から、整備士1人あたりの車検台数が増える事が考えられます。
恐らく、不正を減らす努力は出来ても、不正を無くすことは出来ないでしょう。
また、指定整備工場は1日に何台車検を行うというノルマがある場合があります。
お客様も義務的に行う事が多い車検という制度ではありますが、安全安心を担保するための点検を、「ノルマをこなす」感覚で行わせる事自体に佐野は快く思っていません。
お客様の事を考えれば1台に時間をかけたいが、ノルマがあるのでかけられない、という事も不正を生みやすい状況を作り出しています。
不正車検を行わせない対策方法
ではどうしたら不正車検の対策になるかというと、
認証工場に車検を依頼する事です。
確かに、認証工場でも”点検をせずに書類だけ書く”という事が出来なくはないでしょう。
それでも、陸運局でチェックされ、不備があれば新たな車検証は発行されません。
整備士の能力や状態・状況、会社の方針等によらず、安全と安心が担保されます。
例えば、一級整備士によるダブルチェックを行うという認証工場が登場したとします。
人間が行うのでミスはつきものですが、難易度の高い一級整備士がダブルチェックを行うとなれば、これは安心です。
需要と供給を考慮するとこのようなサービスは登場しないかもしれません。
まとめ:整備士のやりがいを奪ってきたツケがきている
若い人がリモート可能な職種に就きたい気持ちも分かりますので、整備士が不人気であったり、2級整備士資格を取っても他の職種に行ってしまう(趣味の延長に整備資格がある)というケースがあるのも良く分かります。
若手の整備士は離職率も高いように思いますが、その理由の一つに「お客様のために整備を行うための資格なのに、不正を強いられるような環境しかない」という事もあるかもしれません。
(というよりも、実際にそのような声を耳にします)
フロントスタッフからは「早くやれ」「60分まであと10分」「提案したら追加になったからブレーキオイルも交換しろ」と言われ、会社からは「不正をするな、しっかり点検して整備をして、必須以外の整備についてはきちんと提案をしろ」「1日にX台車検をこなせ」と言われ、先輩からは「学校で学んだことと現場は違う」「全部やってたら時間が無いからパッと見て書類書けば良い」「いちいち計測してたら時間には終わらない」と言われるような会社もあるでしょう。
加えて、30代以上の整備スタッフが少ない理由を聞けば、
「子供が産まれると給料が低いから辞めちゃう人が多いんだよね」
これでは、人は育ちません。
ボデーショップ佐野は板金工場ですが、認証工場でもあり、車検を受け付けています。
車検の料金は格安店に比べれば高いですが、売り上げも台数もノルマは無いため、車検の利益はほぼありません。
最大でも月に10台ほどしか行いませんし、キャパシティも15台~20台/月程度でしょう。
1名の整備スタッフの給与を考えると、車検だけ行っていれば車検点検の料金は本来(車検で利益を残すのであれば)、倍以上必要です。
売り上げにノルマやインセンティブがあれば交換不要な物まで不安を煽り交換させるようになります。
台数にノルマがあれば、忙しい時に何かをおろそかにします。それが点検であれば不正に、整備スタッフ自身であればもうこの業界を選ばない退職に繋がります。
どちらも無いボデーショップ佐野では、今後もお客様目線で本当に必要な車検とは何か、という事を今後も模索していきます。
その結果、今後車検料金の値上げも起きるかもしれませんが、お客様に自信を持って選んでいただける工場であり続けるために必要な値上げになるでしょう。
投稿者プロフィール
- 2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。
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