鈑金塗装工場向けの記事ですが、価格転嫁をしないと鈑金塗装工場は廃業します。
価格転嫁以外にも工賃を上げる手法は確かに存在しますが、そのデメリットも存在し、王道となる価格転嫁は今しなければ次にする機会は来ないかもしれません。
鈑金塗装工場は10年後、半分以下になるのでは
リモート勤務できる部分がほとんどなく、夏は暑く冬は寒い工場が多い鈑金塗装工場は、自動車好きの若者が無尽蔵に生まれていた時代を終えたため、工場数は半分以下、下手をすると1/3以下になると言われています。
少子化や車離れの影響ももちろんありますが、廃業を値上げを認めてこなかった保険会社のせいにする人もいます。
しかし、「誰かに値上げを認めてもらわなければ終わってしまう業界」というものは、魅力的に映るでしょうか。自社で生き残りに適正な工賃を設定、使用、協定し顧客の信頼を得続られないのは、どのみち廃業するでしょう。
値上げ以外では、多くの修理工場が賃上げや作業環境の改善、技術の移転(職人の育成)を怠ってきた結果と言って良いでしょう。
整備工場の経営実態から考える未来の鈑金塗装業
日本自動車整備商工組合が、経営実態というデータを公開しています。
物価がどんどん上昇しているのに、健全な整備工場の売上対比経常利益率は3.3%です。
1年で物価が4%上昇しました。値上げをしませんでした。経費は4%以上上がりました。
恐らく、多くの工場が赤字になるでしょう。
これでもまだ、「誰かが値上げをしてくれる」「保険会社の値上げ容認を待つ」という姿勢では、ボーナスが払えなくなり、板金工や塗装工は賃上げをしている会社に転職し、規模縮小から設備更新が出来ず廃業という未来は容易に想像できます。
もちろん、これはあくまで整備工場の経営実態ですが、実は整備工場の方が値上げを出来ています。
つまり、値上げを出来ていない鈑金塗装工場はこのデータ以上に苦しいはずです。
生き残りの最近のトレンド
指数を使わない
損害保険会社によって作られた会社、自研センターが作成した工数が自研センター指数(以下、指数)となり、日本の事故修理見積もりのほとんどが自研センター指数で作成されていると言っても過言ではありません。
しかし、指数は作成当時の意義とは大きく異なるのではないかと考えられ、昨今では「修理工賃が上がらないのは指数のせい」と言われるようになりました。
確かに、指数では実際の作業よりも明らかに短い時間で設定され、現代の車両では使えない、という声も分かりますが、指数を使うも使わないも工場の自由です。
結局のところ、自社の作業工賃の説明が行えない事から、何かの工数表を使う事となります。
最近では、アメリカのミッチェル工数表の考え方を基にする方法や、DAA工数表、WinCARが日本にやってきて海外(ヨーロッパ)の日本車工数表が使えるという道筋も見えてきました。
価格転嫁(値上げ)を行う
どの業界でも価格転嫁を行っているのと同様に、価格転嫁を行います。
工数表の選択は各社自由ですが、いずれにしても自社で価格転嫁を行えないのであれば、廃業まっしぐらであると佐野は考えています。
例えば、経営が苦しくなったので工数表を変えます!とか、赤字になったのであっちの工数にします!という時、もう日本で手に入る工数表に手を出し尽くしたとしたら、最後に残る黒字化の手段は価格転嫁しかないのです。
使用する工数表の変更について、その目的が工賃上昇なのであれば、適切な手段ではないのです。
価格転嫁のための交渉力を上げない会社は、ただなんとなく儲かりそうな工数表に手を出して、それでもダメなら潰れていくのか、「工数表では利益が出ない!何時間かかったから何時間払え!」という、30年以上前のどんぶり勘定に戻るだけですね。
雇用の継続、設備の更新、適切な設備投資、顧客の信頼を得続けられ、事業を継続できる利益率を考慮した1時間あたり工賃の算出が王道で、誰もが納得のいく利益を出す手法です。
ボデーショップ佐野の選択
ボデーショップ佐野は価格転嫁を進めています。
2022年までは年に1回1月1日に、2023年からは年に2回行うようになりました。
急激な物価高、仕入高と、雇用の継続を鑑みた結果です。
以前、佐野はミッチェル工数表のASIA版を入手しミッチェル工数にて算出した工賃を見積もりに反映させる、DAA工数表に対して(入会していないので詳細な中身は知りませんが)知識を深める機会を頂く、その他様々な方法で健全経営を目指しました。
結局のところ、価格転嫁以外の選択肢のデメリットに気づき、標準的な見積もり作成方法として指数を用いて、指数外となる作業についてはミッチェル工数表の考え方をベースとし、指数の無い車種(外車や旧車)については入手している工数表の中から最も実作業に近いものを参考にする、という方法にしました。
指数に回帰したのは、指数が一番正しいから!ではありません。
指数を使うメリット
指数を使うデメリットは沢山あり、指数への不満は多くの鈑金塗装工場のブログ等でも見られますが、そのメリットについてはあまり語られません。
保険会社の回し者ではなく、人件費削減のための指数選択となります。
大きなメリットとして、使う人が多いという点が挙げられます。
指数に触れた事の無い鈑金塗装工場のフロントはまずいません。
保険会社のアジャスター(事故調査員)も指数に触れた事の無い人はいません。
共通言語である指数を使う事によって、例えば中途採用が容易となりますし、保険会社との話はスムーズです。
仮に、DAA工数表を使い慣れています!指数より高い工賃で見積もり作れます!というフロントが面接に来たとしても、DAA工数表がなければ、算出シートがなければ意味がありません。
そのフロントを雇うためにDAAに加入するのも一つの手段ではありますが、指数を使った見積りが出来る方が現時点で中途採用として評価されるのではないでしょうか。
この、使う人が多いというメリットは大きく、指数が日本で流通している見積もりシステムに対し最もフレンドリーである事も、使う人が多いからです。
メリットは以上です。
恐らく、価格転嫁をしない工場では、指数を使う真綿で首を絞め、従業員にボーナスも払えなくなり、設備更新ができず今の設備が壊れるか人が辞めたら廃業まっしぐらとなります。
価格転嫁ができる工場であれば、指数を使うデメリットは大きくないのではないでしょうか。
結局のところ、指数を使うデメリットが「工数として正しくないから」ではなくて、「実作業に対して時間が少なすぎる事から、工賃が安くなっているため」なのであれば、指数でも利益が出る収益構造に変えるのが社長(又は鈑金部門の部長)の仕事になるでしょう。
まとめ:生き残るのは王道を往く工場であってほしい
顧客の車両をキズつける工場や、過剰請求を行う工場、顧客に黙って直していないのに直したことにする工場が邪道だとすれば、それ以外が王道でしょう。
格安修理を謳う工場の仕上がりが良ければ顧客から選ばれるし、市場相場より高い工場の仕上がりが悪くかったとしても、サービスが良ければ選ばれ続けるかもしれません。
顧客から選ばれなくなれば淘汰されるのが資本主義です。
王道を往く工場が選ばれ、正当な料金を請求し、正当な料金が支払われなければ、邪道な工場が生き残り、本来必要なサービス内容よりも低いレベルの修理や無駄な支払いを行う事で保険会社にとっても大きな損失となります。
その損失は保険料に跳ね返るだけではなく、信頼のおけない修理工場が増える事で業界全体の不信感から修理に出さない・出せないという人も出てくるのではないでしょうか。
生き残るべき工場が共存・共栄していくための方法を、ボデーショップ佐野は考えていきたいと思います。
その一つの方法として、協定に困っている工場の相談を受け付けたいと考えています。
投稿者プロフィール
- 2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。
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