コラム:インセンティブはこの業界には合わない

ボデーショップ佐野
NEWS-コラム-ブログ

「いい加減な社長さんが多い業界で、おたくはマトモ」と言われる事が多い弊社でございますが、
実際のところ、本当にいい加減な社長さんが多く、まず謝る事すら知らないし出来ないという方が多いです。
せっかくマトモと言われるので、昨今世間を騒がせている問題の原因と、他の工場でも起こりうる理由を記載していきたいと思います。

一番の問題:自動車整備と板金塗装に適合しない「インセンティブの存在」

私は、これが一番の問題の原因だと思います。

当たり前のことですが、整備内容や板金塗装の内容というものは車によって状態が異なるため、工場側が1台あたりの単価を上げる手段は限られます。
弊社では過去に、板金塗装の台単価を上げる手段として「保険修理で入庫したお客様に、他の個所の修理を同時で行う事で同時作業のメリットを活かし安価に提供できるから、他のキズの見積りをしよう」という期間がございました。
しかし、実際に行うとこれは難しく、「被害事故を受けた私が何でお金を払って修理しなければならないのか」「保険に含めてやってくれ」(保険金詐欺になるのでそういった事はもちろんできません)というお話をいただく事が多く、メリットはあるもののそう言いたくなる気持ちは分かるため提案を辞めました。

整備工場さんやガソリンスタンドさんですと、オイル交換やバッテリーの状態点検からの交換、車検が近ければ車検のご提案等もございますね。

車検整備や一般整備であれば、次の車検で交換すれば済むものを予防整備として提案する事で、4年後に買い替える予定の車にそれ以上の整備提案を行う会社は多いと思います。
(弊社では、4年後に買い替える等のご要望があれば、調子が悪くなってからでも良いのではないか、次回車検時までおそらく持つと思うので乗る距離等がこれまでより増えるようなら再点検で良いのではないか、という提案を行っています)

台単価の向上は、以上のように整備であれば壊れているわけではない部品交換の提案を行う、板金であれば修理箇所を増やすという方法しか無いように考えられます。
しかし、依頼を断る、安価な方法にするという手段のご提案を避けるようになるのではないでしょうか。
これは、ボデーショップ佐野の考え方と相反するものとなります。

「儲からない仕事は手を抜く」という事も考えられます。
直接的には台単価の向上に繋がりませんで、忙しいのに仕事を(インセンティブのために)とってくる、短い納期でも引き受ける、断らないという事をしてしまうのは想像できますね。
例えば、車検の点検費用等は決まっており、(企業をしてのリスクに見合わないものの)指定整備工場は手を抜こうと思えばいくらでも手を抜けます。実際に、明らかに点検にかかる時間が経過していないにも関わらず点検が終了している場合や、「1人で1日に10台の車検を行っていた」という、奇跡的好条件が揃っても難しい=99%手を抜いているか、労基法に違反しているか、その両方しか考えられない働き方を行っている整備工場もございます。

販売の営業マンにノルマがあるのは(外回りがあったりもするでしょうから)仕方ないと思いますが、整備や板金で個人のノルマやインセンティブがあるというのは、手抜きや違法行為等の不正を生む可能性が非常に大きくなると考えています。

二番目の問題:工賃の値上げが認められづらい

2023年に入ってから少しずつ認められてきておりますが、整備や板金塗装という業界は工賃の値上げが認められてきませんでした。

車検整備に関しては、高い工賃のメリットが見えづらいため、ネット予約などによる価格競争で最低料金の低価格化が進み、その金額で利益を出せるとは思えないという構造になっています。

板金塗装については、工場側が値上げを行っても、地域相場という根拠のない数字に近くないと保険会社(の上司)が認めないという理由から、一般顧客への売値を上げた事で「保険を使ったら同じ内容で1割以上安くなった」というケースもゼロでは無いでしょう。

これらにより、整備工場はすぐに必要な整備以外のご提案が増えるようになりました。
板金塗装工場は自社の値決めを的確に行う事が困難になり、設備投資のメリットがない業界と言われるようになってしまいました。

三番目の問題:見積もり無料の弊害

弊社では概算見積もり以上のお見積りに関しては有料としておりますが、これについてご納得いただけない場合やご納得いただきにくい場合もございます。

無料で見積もりを出せる時代は終わりが近づいています。
無料の見積もりにどこまで精度を求めるのか、その精度によっては初期見積もりはあまり意味のないもので、追加作業や部品は当たり前のように発生するのではないか、という問題に繋がります。
追加作業や部品が多く出て、初期概算見積もりより高くなる場合、「おたくでわざとキズをつけたのでは?」と言われてしまうケースも出てきているようです。

鈑金塗装の見積もりは、バンパー交換一つとっても、その車両のグレードとオプションはどうか、それによってASV(安全運転装備)搭載車になるか、なる場合は工場資格によって作業ができないものがあるか、バンパーを外す際にこのオプションがついている場合はエラーが出るか、エラーが出る場合にどのような作業が必要か、エラーが出ない場合でもリセット作業はどこまで行う必要があるか、バッテリーを外さないとコンピュータにダメージを与える作業にあたるか、バッテリーを外す事によってどのようなリセット作業が必要か、特にASV搭載車両の場合メーカーからバンパー内に補修不可な箇所はないか・・・といった様々な点についてお調べしなければ、正確なお見積りにはなりません。
当然、5分10分程度でお調べしてお見積りできるものではなく、正確なお見積りには時間を要します。

作業中の追加作業や部品にシビアになるお客様が多くなっている中、ある程度の変動を見越した初期見積書ではご信頼を得続けるのは難しいと感じています。
しかし、無料で出す見積もりにエビデンスを要求されたり、「初期見積もりの内容と大幅に異なる」「作業を進めたら追加作業が出たが、これはおたくでキズをつけたのでは?」と言われるようになると、多くの板金塗装工場で「無料見積もりはそんなもんです」で済ませなくてはならず、有料見積もりの方が信頼を得やすいという流れになる事も考えられます。

バンパー交換だけでも資料を確認し、見積もりの形式に整え内部損傷を予測しその結果をお客様に伝えるのにこれだけの作業が必要なため、当然アルバイトでの対応は困難です。
知識・経験が必要で、これだけの人材を最低賃金付近で雇い続ける事は出来ないでしょう。
であれば、その人を動かすのに30分以上かかるお見積りを「無料」で提供し続けるのは不可能です。

こういった、今まで無料で出来ていた事が時代の流れで出来ない状況になってきているものの、「作業をしなければお金はかからない」というイメージはまだまだ抜けないと思います。

こういった無料(となりやすい)の作業の穴埋めについて、板金塗装工場では1時間あたり工賃に転嫁されるものですが、工場経費であるはずの見積もり(及び保険会社との協定)に関する人件費は転嫁されづらいものとなっております。

見積もり以外でも、工場によってはキャンペーン等で無料の作業を行っているところがあるかもしれませんし、保険会社によっては「この作業は慣れていれば1分かからないから工賃ゼロで」というところもございます。
新品部品を落としてキズをつけたら部品を取り直しになります。そのリスクを抱えたプロが作業して、1分かからないから0円というのは理にかなっているでしょうか。

このまま無料の見積もりや作業が工賃に反映できないのであれば、不正な行為や違法行為を行ってでも経営を継続したいと考える工場が増えても不思議ではありません。

結論:インセンティブや無料の作業が多いと、顧客のためにならない

弊社従業員には個人インセンティブが無く、スキル評価による雇用契約を行っているため、スキルがあると判断されれば給料が上がります。

しかし、評価制度の作成が難しい整備・板金塗装業界では、インセンティブによる評価を行っているところも少なくないと思います。

給与の中でインセンティブが大きなウェイトを占めていれば、不正な行為や違法行為に手を染めてしまい、それが日常化、上司や会社が不正の存在を否定をしても制度上の都合で慣習的に行われているという可能性はあります。
私は、この業界にインセンティブは不適切だと思います。
(販売店の営業マンには必要かもしれませんが、これも2023年に「ウソ納車」といった行為が問題となりましたね)

「サービスで当たり前」が当たり前じゃなくなる日はもう来ています。
板金塗装工場側の社長・上司・従業員の意識の問題ももちろんですが、収益構造上・給与体系上起こりえる可能性をはらんでいるため、意外にも多くの工場で発生しうるリスクとなっています。

もちろん、全てのインセンティブが悪いという事ではありませんが、お客様のためにインセンティブがあるわけではなく、評価制度が上手く作成できないため、過度な売上目標を達成するためにインセンティブが利用されているようであれば、それはお客様のために行っている制度とは言えないでしょう。

投稿者プロフィール

shusukesano
shusukesano
2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。

No responses yet

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です