結論から申し上げますと、「一般顧客が水性塗装を使用しているかどうか、仕上がりの確認のみで判別する事はほぼ出来ない」ため、「過大請求されているかの判別は難しい」と言えます。

水性塗装の普及は進みましたが、100%水性塗装(溶剤は置いていない)という工場はまだ少ないと思います。
100%水性化していなければ、水性塗装を使用したとする過大請求問題は起こりえます。

水性塗装とは

水性塗装とは、「従来は有機溶剤(シンナー等)に溶けていた塗料顔料(色)が、主に水に溶けているもの」と言えます。
極論を言えば、主に溶けているものが有機溶剤か水かの違いなので、乾燥後の状態を見ても良く分からない、という方がほとんどだと言えます。
厳密に言うと、乾燥に関わる工程の差等により、顔料が鋼板(下地塗装、又は防錆塗装)に定着するまでの塗料内の粒子の移動に差が出ることから、新車塗装に使われている手法に近い方が新車との差も少なくなる、とも言えますが、目で見て差を感じとれる方は少ないでしょう。
溶剤か水性かという部分よりも、紫外線などの影響で変色している色にどれだけ合わせて調色できるか、という部分に調色の腕が関わってきます。
(補修塗装における溶剤と水性の差に比べれば、新車塗装と補修塗装の設備差の方が大きいため、現行の新車が水性塗装で製造されているからといって、水性塗装でなければ色が出ないかというとそうではありません)

水性塗装で請求する事の何が問題点なのか

水性塗装の方が工賃や塗装材料費が高いです。
「水性塗料使用で請求したが、水性ではなかった」
という事でニュースになるのは仕上がりが良いかどうかよりも、
金銭面、つまり不正請求・過大請求となっている事が問題です。

工賃に差が出るのは、シンナーは揮発性が高く、水は揮発性が低いため、同じ条件で強制乾燥させるとシンナーの方が早く乾燥します。
実際に、水性塗装は塗装ブース内で熱以外に風速も必要で、ブースの構造や物を置くことで風の流れが変わり、乾燥しづらい部分が出る事も考えられます。

水性塗装用に風速を確保する設備が必要となるのですが、従来型の塗装ブースでは風速を確保できない場合があるため、水性塗装に対応している塗装ブースが必要です。
現在、本格塗装ブースと呼ばれる箱の中に車両を入れるタイプのものでは、工事費含め1,000万円~2,000万円近い設備投資が必要となっています。
それなりに仕事量を確保できている工場でなければ、設備投資も難しいでしょう。
設備費は1時間あたりの工賃に転嫁される事が多く、工賃が安価な工場は、塗装ブースが安価である可能性があります。

余談ですが、塗装ブースが安価だと塗装時にゴミ・ブツ(=ほこり、ちり、場合によっては虫)などが付着しやすくなり、これを除去処理するのに時間がかかりすぎる事から、除去しない工場もある、という負の側面があります。
安価な塗装ブースも進化していると聞きますが、本格塗装ブースでの塗装を前提とした色も増えてきています。
安価な修理費にしたい、という方は昔からあるシンプルなソリッドの色の車両を購入しましょう。

水性塗装をした、という不正請求の発生要因

100%水性塗装に移行している工場以外では、起こりえる問題です。
つまり、100%水性化していない弊社でも起こりえる問題ですが、水性塗装割合が低く、請求の請求内容はほとんど従来型となっており、水性使用時に水性使用を画像で伝えるという運用のため、見間違えて請求する以外はありませんし、見積もりを確認する保険会社がこの手法を理解していれば「水性って書いてないですよ」と気づくことも考えられます。

具体的には、

  • 水性での作業を指示したのに使っていなかった
  • 水性で作業したと報告されていたが嘘だった(慣れ・手間・納期・色の出方等の問題で溶剤を使用したが、勝手な作業であったため怒られるので言わなかった)
  • 設備や材料は容易してあるが実は使った事が無い(故意な不正請求)

上記のような理由が考えられるでしょう。

顧客側が工場に水性塗装を使ってもらいたい場合、どうしたら良いか

特に外車にお乗りのお客様ですと、水性塗装でのお見積り・作業のご要望をいただく事もございます。
弊社では、水性塗装で指示を出せばよほどの理由が無い限り水性を使う事ができますが、
水性塗装を確実に使わせるにはどうしたら良いでしょうか。

・水性塗料が用意されている事を確認する(無い場合はさすがに断ると思いますが・・・)
・水性塗装対応ブースである事を確認する(塗装ブースの型番から水性塗装に対応しているか確認)
・調色工程を見せてもらう(水性塗装の材料で調色していれば、まず安心)
・調色済み塗料を見せてもらう(水性塗装でもシンナーを全く使っていないわけではないので、多少シンナー臭くても水性塗装の可能性はありますが、乾燥にかかる時間を確認する事で判別できるかもしれません)

工場側が顧客を安心させるために出来る事はあるか

結論から言うと、あまりありません。
弊社のように、設備や塗料の画像をWEBサイトにアップロードするのはもちろんですが、
日々丁寧な顧客対応を心掛け以外に出来る事は少ないでしょう。
調色工程を見せる、調色済み塗料を見せるには来店していただく必要があり、調色済み塗料に含まれる特定化学物質を考慮すれば調色済み塗料を渡す・送る事は難しいでしょう。

100%水性化は今後増えていくかもしれませんが、乾燥に必要な時間は溶剤に分があることに加え、
溶剤よりも高額になることから、安価な修理の選択肢を減らす事にもなります。
作業効率や工賃差を考えると、100%水性化はリスクが高い選択肢と言えるかもしれません。

まとめ:不正請求はきっと起きている

もちろん、全ての水性兼用工場が不正をしているという意味ではありませんが、
前述の通りヒューマンエラー等により不正請求となっている案件が、現実に発生していると思われます。

故意に水性塗装を使用していない事を認識していながら水性塗装として請求している案件は全国的に少ないと思いたいですが、
未使用部品を使ったことにして請求する工場もまだまだある、と聞き及んでいます。

顧客の信頼をどう掴むか、お客様に対し透明性をどのように訴えていくのかは難しいかもしれません。
いずれにしても、透明性が低い工場が儲かって生き残り、透明性が高い工場が淘汰されていく、という世の中にはしたくないものです。

投稿者プロフィール

shusukesano
shusukesano
2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。

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